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読むHEART ROCK 2025 REUNION プロローグ②

アブドラ・ハキームはマタカイーダの施設に食糧を納入している業者だった。
ずんぐりとした体つきからは非常に温和なたたずまいをしていた。
どこでも食料は必要になるため施設毎に彼は幅広く取引を行っていた。訓練施設から2キロの帰り道。
坂道の先のカーブを抜けようとしたときだった。ボンネットが開いたトヨタのステーションワゴンが立ち往生していることに気付いた。
もともとこの辺りでは速度が出してはいないが真っ暗な道では危うくぶつかるところだった。
クラクションならしてドアを開けた瞬間、後ろから羽交い絞めにされ、鼻と口をふさがれた。
一瞬で気が遠のき視界がなくなった。
一体どれくらいの時間がたったのだろうか。
手足は縛られ自分だけが異常に明るいがまわりは真っ暗である。
それほど時間はたっていない感覚がする。
強盗ならこんなことはしない。これはどういうことだ。
「。。。」 無言でアブドラは闇の人の気配をうかがう。
下手に顔を見れば殺されることはアブドラでも分かった。

「痛い目に合わせるつもりはないがすこしばかりマタカイーダの施設のことを話してもらう」
「俺が帰らなければ何人もいる妻がさわぎたて彼らに知れるぞ」アブドラは強がってみせた
「そうかでは手短にいこうか」一切の感情のない声で男は言い放った。
はじめは柔らかな話口の黒装束の大男は10分後にはアブドラの股間を容赦なく蹴り上げた。

中の様子が少しずつ鮮明になってきた。
とらえた捕虜はいつも二つ先の峠を越えた彼らの洞窟に連れていかれる。
大がかりな作戦を仮に行えば、彼らを余計刺激しさらに幹部への手がかりを失ってしまうだろう。
よってできるだけ小規模で短時間で終えなければならない。
あらかじめ立てていたマットの撤収計画とは全く異なるが急を要す場面であることは疑いの余地がないだろう。

「救出はニック、ジェーソン、ベックとデクスター四人で行い、最終コールはコンタクトポイントのコーナーからから1000m手前にリカルドとマックスで行う。
300m下ったRVにジェームスが待機。アブドラの時と同じやり方で一度車両を止めさせ4人でトラックを襲いマットを救出。
抵抗すれば排除し事故を装いがけ下にトラックごと突き落とす。
あの場所はゆうに200mの崖でボリバンですら見つけにくいし、どっちみち護衛は生きて帰っても彼らに殺されるだけだ」

解放されたアブドラは自宅への道のりで自問した。
命だけは助かったが今起きそうなことはボリバン側に知らせるべきか否か。
今後もどこと付き合いどうやって生計を立ててゆくべきか。
この問いをこれまでもさんざんと行ってきた。
ムジャヒディン時代に片目をつぶされてから現在の道に入ったわけだがやはり根っこはどこかで聖戦士のよりどころを求めてしまっていたのであった。
家に戻っても股間が痛み、部屋を行ったり来たりして落ち着きをなくしていたアブドラであった。
(米軍をはじめとする西側の連中はいずれ帰る。医療でもインフラでも入ってくる奴らは綺麗ごとばかりで金目当てだ。アホガンのことはアホガンで行うべきだろう。)
アブドラの意は固まった。

敵による捕虜奪還が計画されていることがファルーカからコマンダーにもたらされたのはすでに護送車が出発した後だった。
(もう少し早くやっておけばよかったんだ)ファルーカは思った。
「まだ間にあうかもしれません。引き返すよう命令しますか」
ファルーカの問いにコマンダーは少し間をおいてこう返した。
「今、洞窟側の兵士はどれくらいいるんだ」
「向かわせるんですか」ファルーカは怪訝な表情を隠さなかった。
サミウル(マット)のことをどこかで好かなかったファルーカとしては今回のことは少し他人事と感じる部分があった。
「まず護送車に連絡し引き返すよう指示しろ。電話が通じなければそれは襲われたことを意味する。洞窟から小隊を向かわせる準備を急げ。こちらからも向かって挟み撃ちにする。敵が強襲するとしてもルートは南へのこの一本しかない。どこの兵か知らんが追いついて殲滅してやる」コマンダーは語気を強めた。
「勝ち負けでない。この場所で何をやっても許されるとは思えぬよう示す必要がある」

西側諸国の軍隊は非常にロジックに、軍事的問題、解決策、将来、作戦についてのアプローチを硬く学ぶ。
しかし時にそれは考えをどこかに固定するバイアスとして機能してしまうことがあり、現代的な紛争解決に向け必要とされる批判的思考(critical thinking)をスポイルしてしまうことがある。
つまり軍事的思考を強める巨大な組織になるほどドクトリンが幅を利かせて現実的な判断ができないというジレンマを抱える特徴をもっている。
特殊作戦に於いては特殊部隊の支援と援護をする事を任務とする75レンジャーに事態が知らされたのは奇しくも組織論をテーマとするミーティングが開催されていた真っ最中であった。
ムーア大佐は交戦中との一方を受けてこの機会を最大限利用しかつ短時間で対策を作成し実行する欲求にかられた。
会議に参加の面々に落ち着いた表情で大佐は述べた。

「国境付近の山中で展開中の救出作戦ですが、問題が発生しました」一同は目を合わせた。
画面は当該地区を映し出していた。
幸いにもドクトリンを強烈に振りかざす人間は今回の出席者にはおらず現実的な討議と意思決定が期待できそうだった。
大佐は本題を話し始めた。

リカルドとマックスは護送車をやり過ごし最終コールをデクスターに行った。
あとものの数分で捕獲劇が行われるだろう。
同時に潜伏場所から出て襲撃地点へと急いだ。
一方でリエゾンオフィサーのコリンズは作戦を画面上の光点として把握していた。
マットが元いた場所と洞窟から車が動いたことが分かった。しかもまとまった数である
「いやな予感がする」すぐにコリンズはデクスターにメッセージをいれた。

どうか見てくれと願いながら・・・
マットが移送される確率は100%ではなかったものの救出劇は思いのほかうまく運び護送のボリバン兵士はあっさりと降伏した。
一人だけの護送であったようで少人数の敵であったことも幸いした。
一切の無駄のない強襲はただの強盗ではないと分かったらしい。
車を止めさせてから撤収までほんの60秒たらず。
ほとんど無言だが、念のため言葉はすべて現地語で行い、今までの作戦が悟られないように工夫する徹底ぶりだった。
ボリバン兵士から自由と通信機器を奪い車も数キロ先のがけから車だけ落とすことにした。
移動を開始しようとしてデクスターはコリンズからのメッセージを見た。
そこには敵組織の追撃が始まる展開がアラートされていた。

山麓の一本道、デクスターとの合流を急ぐリカルドは斜面を転がるように向かってくる車両に目が行った。
リカルドはスナイパーライフルのスコープを覗いた。そこにはぞっとする光景が見て取れた。
マックスが低く唸る。
「西側の道からも車列が来ているぞ。車両は4台。兵士はざっと3ダース以上はいる。」

ー続く。