「What a Fxxx・・・」リカルドはつぶやく。
そしてデクスターならどう考えるかを必死で考えた。
位置的に敵に近い所に自分達がいる。
デクスターは俺たちを待っているはずだ。
マットを援護救出しながら6倍の敵に対峙する状況で何が最善か・・・
デクスターはリカルドから連絡受けて待機するジェームスにコンタクトさせ本部への状況説明を行った。
そしてリカルドと話しその場での迎撃を判断した。
ただ自らの本隊については敵のほうが場所的に高いことからもう少しポジションを見直す必要がある。
月が出るまでまだ時間はある。
リカルドとマックスには斜面にとどまり本隊に敵が必要以上寄らないよう狙撃を命じた。
リカルドの弾が1台目の運転手に命中させ、崖から転落させると、細い山道は地獄絵に塗り替えられた。
あの高さでは全員即死だろう。
2台目を狙った弾により車両はバランスを崩し横転し引火爆発したが、その炎で車両後部から兵士が排出されるのが確認できた。
そして嫌な見覚えある緑色の尖がった弾頭も視界に入った。
横転した車両の脇を3台目のトラックが通過しこちらに向かってくるのが分かった。
今度はマックスのライフルが火を噴きトラックを足止めした。
「デクスター、2台処理あと2台来る。依然タンゴ30距離400」
「リカルド、デクスター 了解、こちらも位置についた。引き続き側面から叩け」
敵勢力はこちらのカウンター攻撃で散開をはじめたが地の利は彼らにある。
援軍が来れば均衡はあっという間に崩れ、じわりじわりと場を詰められれば長期戦は不利になるだけだ。
暗視ゴーグルにサーマルビジョンの優位性はあるが間もなく月も出るしこのままでは損耗も危惧しなければならない。
デクスターは本格的な銃撃戦が始まる前にQRFを要請した。
「敵の一番集中している岩肌エリアの座標を伝えろ、マックス」デクスターは叫んだ。
高い音を立てて敵の銃弾がデクスターのいる近くの岩場に当たり始めた。
お互い距離を置いての銃撃戦ではあるが時間とともに確実に敵を仕留めていった。
しかし損害もあり、ベックは左腕に銃弾受け倒れかけるものの果敢に片腕で敵を打ち抜いていた。
闇夜にタキシングの金属音が響き渡る。
レンジャーは暫定的なブリーフィングを受けながら装備のチェックを行う。
QRF要請からなんと10分で離陸体制を整えたことになる。
ブラックホーク3機とAH-64パッチが1機のローターが回転している。
追加のメッセージが次々と届く。
「連絡なしの軍事行動はボッキニスタンを刺激するから、アプローチはいったん西側から入りLZに向かえ」
さらにプロペラが轟音をたてて回り離陸開始した。
基地の明かりが眼下に消えてゆく。
山麓からぐいと高度をあげてゆく。
渓谷を越して大きく旋回を始めた。
「ETA5マイクス」オールエキップチェック
レンジャーのヘリからも山麓で燃える車両は数キロ先からでも分かった。
最初に火を噴いたのはアパッチのPNVSで運用されるハイドラ70ロケット弾。
標的はまだ無事な車両に隠れて射撃するボリバン兵達であった。
フレシェット弾頭は鋭く空気を切り裂き兵士達は文字通りバラバラとなった。
散らばった者はむやみにRPGを放つが続いて火を噴くM230機関砲が周囲に派手な死をもたらした。
一方で攻撃ヘリによる襲撃によりボリバン兵は総崩れとなり、大きな危惧は無くなった。
ブラックホークが次々と着陸しレンジャーが散開し残党を正確に仕留める中、SEALチームが回収された。
あたり一面を静寂が支配し戦闘は終了した。
今回は常に状況を予測し布陣し早い段階での要請をしたこと、QRFの素早い出動と的確な装備運用が結果を残した。
潜伏捜査自体は失敗に終わったが敵勢力への一定のダメージは与えられたともいえる。
幹部殺害という大きなミッションは振り出しに戻るわけだが日頃の練度を大いに発揮する機会となった。
救出後に揺れるヘリの中でマットはやっとうっすらと安堵の表情を浮かべた。
点滴を受けながら山麓に降下してゆく中で、漆黒の稜線に満月が顔を出し始めていた。
帰還後、彼は失敗の分析を進めた。
何がいけなかったのか、むしろあの時に自爆ベストを着ればよかったのか。
組織間の連携の不備はそこから何年もたってから見えてきた。
・・・それから数年後、再びアホガニスタンへと赴く命令が下る。
彼は、あの日の恐怖と自責の念そして組織的な限界を実感しながらも、今回の任務こそが自分の贖罪の機会だと信じていた。
しかし、その旅路の先に待ち受けているのは、かつての彼を超える苦境と、運命的な選択だった。
—続く。